沙耶の唄 〜その美しき世界〜


「人でないモノを愛した男は、
最後には自分が人間である事を辞めて、恋を成就させるんだ。
  ハッピーエンドだよ。だろう?


とりあえず、第一印象としてはグロいですね。
ゲームを始めるとまず「グロ画像にソフトフォーカスをかけるか」どうかを聞かれますし。
まぁ、私は修正無しでやりましたが。

そしたら始めて早々、グロい肉塊と神経を逆なでするような合成音声のコンボが・・・_| ̄|○
実はこの話の主人公・匂坂郁紀(さきさか ふみのり)は交通事故で家族全員を失った挙句、事故の後遺症で認識傷害に陥った精神障害者であり、彼の感じられるすべては(かつての親友たちですら)醜い肉塊であり、汚らわしい腐臭であり、聞くに堪えぬ雑音なのです。
もはや彼にとって日常のすべては地獄以外の何物でもなく、かつての暮らしを取り繕うことはこの上ない苦しみなのですが・・・

ここで面白いのは、彼が「『異常なのは自分である』ということを自覚している」と言う点です。
事故によって脳に重大なダメージを受け、最先端の医療技術で回復した彼。
奇しくも彼が医大生であったということも手伝い、その地獄を知覚したとき彼は「脳をいじくられた副作用による障害」だと理解するのです。
世界は何も異常などではない、おかしいのは自分の感覚のほうだ、と。
で、そこまで分かっていながら、彼は医者のモルモットになる事を嫌って、誰にも打ち明けずに仕舞い込んでしまうのです。

ああ、何という精神の強靭さでしょう。
(後日、不幸にも彼と同じ認識傷害を植えつけられた隣のおじさんはすぐに発狂してしまったというのに・・・)

しかし、それにはきちんと理由があって、彼には唯一心の支えとなるもの、悪夢のような世界の中で彼が唯一「まともに」感じられる存在、「沙耶」がいたのです。
この沙耶さん、主人公にとってはロリな美少女に見えるし、芳しい香りと温かい触覚を感じられる唯一の存在なのですが、実は他の人間にとっては、腐臭と粘液を撒き散らす、見るもおぞましい化け物なのです。

すべてがおぞましく感じられる世界において、本来は醜い存在のみが美しく感じられる・・・
これは、お分かりの人にはお分かりの通り、「火の鳥 復活篇」のオマージュです。
同じく、事故によって世界のすべてが岩塊のようなものにしか感じられなくなった主人公にとって、冷たく表情も無い事務用ロボット一体のみが美しく感じられるという話。
この話をご存知ならば、主人公レオナが最後に取った決断もご存知でしょう。
人でないモノを愛した男は、最後には自分が人間である事を辞めて、恋を成就させる
すなわち、レオナはチヒロ61298号とひとつになり、「感情を持つロボット・ロビタ」となるのです。

この話を知っており、そして自分もまた、この世界で沙耶のみを愛そうと決意したとき・・・
郁紀もまた、人である事を辞めてしまいます。
沙耶と共にかつての友人・隣人たちを狩り、その屍肉を食らうのです。

一見それは常軌を逸した、忌むべき所業に思われます。
しかし二人にとっては人の屍肉こそが最も美味なる糧であり、食欲をそそるかたちをしているのです。
沙耶にとっては、自らの糧となるものを狩って当たり前に食しているだけです。
また郁紀にとっても、「人間」は忌むべき汚物にしか感じられないわけで、「化け物狩り」をしている感覚しかないのです。
(それが人間に見えれば殺すことなど無かったでしょう。事実、既に何人もの人間を手にかけた物語の終盤において、沙耶と同じような姿となったかつての女友達を傷つける事を善しとせず、また狂乱した友人がそれを惨殺したことに憤ってさえいます。)
一体、誰が彼らを非難できるでしょう?
汚らわしい化け物を倒し、美味と思えるものを食べた・・・ただそれだけのことなのです

このゲームのラストのひとつ(と言っても、全部で3つしかないのですが)において、最後の最後で沙耶はやられてしまい、絶望した郁紀は自ら命を絶ってしまいます。
その様を見た沙耶は最後の力を振り絞って郁紀のところまで這っていきます。
その場に居合わせた郁紀のかつての友人が(彼にとってはおぞましい化物が粘液撒き散らしながら郁紀に向かって行ってる様にしか見えないので)必死になって鉄パイプで殴って妨害するなか、決して怯むことなく郁紀の遺体まで辿り着き、彼の許で息を引き取るのです。
その様子は徹底して「まともな人間の視点で」、沙耶は化物として描かれています。しかし
なんて、美しい・・・

プレイしていて、目頭が熱くなりました。
確かにこのゲームは、グロくて、猟奇で、救いようがありません。
しかし、すばらしい純愛ものでした。

もうひとつラストを挙げてみましょう。
先ほどの場面で沙耶がやられること無く、かつての友人を屠る事に成功した場合。
えっと、実はこの場合も結局沙耶は死んでしまいますが・・・
郁紀との子供を生むために花として咲き、世界を郁紀のために、彼にとって美しく見えるよう(つまり、一般人の感覚での、醜い肉塊の世界に)つくり変えて、この星とひとつになるのです。
世界は沙耶の愛を受けて生まれ変わる。人類もまた、彼女の子供として生まれ変わる。
すべては新しく、美しい形に生まれ変わる・・・

郁紀と、新しい世界の住人たちにとって、美しい世界に。

なんかもう、私も人間やめちゃおうかなぁ、とか少し思っちゃったんですが。
まぁ、実際こっちの世界においては(私の観測する限り)沙耶はいないわけですから。
わざわざ狂う必要も無いでしょうね。(゚∀゚)

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